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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)619号 判決

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  原告らは、管理組合の構成員であるところ、管理組合の理事長は管理組合員から委任ないし代理を受けて組合総会の決議によって定められた業務等の執行をなすものであるから、その任務に背きこれを故意または過失によって履行せず、管理組合に損害を与えるようなことがあったときは、債務不履行となり、右理事長は管理組合に対して損害賠償の責めを負うべきことになる。したがって、管理組合(ないし区分所有者全員)が原告となって右理事長に対して損害賠償を求める訴訟を提起することはできるが、管理組合の構成員各自が同様の訴訟を提起することができるかについては、建物の区分所有等に関する法律上、管理組合の構成員各自がその理事長に対する責任を問うことを認める旨の商法二六七条のような規定は存しないし、管理組合の構成員各自が民法四二三条により代位するという原告の構成もその要件を欠くというべきである。そして、建物の区分所有等に関する法律(六条、五七条)は、共同利益違反行為の是正を求めるような団体的性格を有する権利については他の区分所有者の全員または管理組合法人が有するものとし、これを訴訟により行使するか否かは、集会の決議によらなければならないとするように、区分所有者の共同の利益を守るためには区分所有者全員が共同で行使すべきものとしているところ、本件のように理事長の業務執行にあたっての落ち度を追及するような訴訟においても団体的性格を有する権利の行使というべきであるから右の法理が適用されるべきであり、一般の民法法理の適用される場面ではないものと解する。

以上より、本件建物の区分所有者らがその全体の利益を図るために訴訟を追行するには、区分所有者ら全員が訴訟当事者になるか、その中から訴訟追行権を付与された当事者を選定する等すべきことになるところ、そのような手続きを何ら踏んでいない原告らには本件訴訟を追行する権限はない。

なお、弁論の全趣旨によれば、原告山崎祇雄は本件訴訟提起後、本件建物から転居していることが認められ、現在は区分所有者らで構成する管理組合の構成員ではない。したがって、原告山崎祇雄についてはこの意味でも本件訴訟の原告適格を欠くに至った。

二  以上の事実によれば、原告らには本件訴訟の原告となる権限がないから却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本善彦)

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